東京あいうえお

発達障害を持つ育てにくい子たちと できるだけ楽しく暮すには?を探す試行錯誤の日々

【実録育児】息子が東京駅のトイレに籠城した話

昨日、下の息子(5歳)を病院に連れていくために会社を休んだ。

病院は家から1時間半ぐらい電車を乗り継いだ所にある。二人きりの小旅行気分だ。

下の息子は電車の中でじっとできない。叱れば叱るほど余計におかしくなる。だから漫画やタブレットなどの武器を持参し万全の態勢で臨んだ。

 

しかし出発したのがちょうど通勤ラッシュの時間帯で、イスに座ることができない。だからゲームもできないし漫画を渡したら座って読み出すに違いないので、どうしようもできない。

 

仕方がないので抱っこした。

 

もうすぐ6歳になる息子を片手で抱っこして、もうひとつの手でつり革をつかむ。

40代のおっさんにはなかなか堪える状態だ。でも、息子が騒いで収拾がつかなくなるよりかは全然マシだ。

 

肉体的な疲労よりも精神的な疲労の方がずっと辛い。

 

その後、何度か乗り換えて病院に行き、昼ごはんを食べ、お菓子というニンジンを目の前にぶら下げながら、わりと順調に課題をクリアしていった。

 

家に連れて帰ったら、息子は体操教室へ、自分は映画『レヴェナント』を観にいくつもりだ。

このまま行けば順調に帰れる。

 

僕と息子は東京駅に着いた。

そして山手線のホームで電車を待っていると、息子の様子がおかしくなった。

 

どうした?

 

うんちしたい。

 

よしよし、すぐ行こう。

 

そうして僕らは階段を下り、改札内でトイレに向かった。

東京駅のトイレは思ってたより綺麗で、大の個室は8個ぐらいあっただろうか。

3番目に並び、2~3分で個室に入った。

 

息子は赤ちゃんの頃から便秘気味だ。マルツエキスとか飲ませていた記憶がある。

さらに野菜嫌いなので、繊維類などをほとんど食べていないというのもあるだろう。

 

漏らす前にちゃんと言えたんだから偉いじゃないか。

 

幼稚園時代にうんこを漏らしまくっていた自分からすれば、息子の方が立派だとさえ思え誇らしく感じてもいた。

 

その時は―

 

食事中の方には申し訳ないが、ここからあまり想像したくない話をする。

 

それから、しばらく待った。5分、10分。

あちこちから音が聞こえてくるのだ。ブーとか、う~んとかカランカランとか。

 

まさに5.1chサラウンドシステム。

 

センター、レフト、ライト、リア×2に、低音を聴かせるウーハー。東京駅のホームシアター

だんだん気分が悪くなってきた。

なぜなら、自分は何とも戦わず、ただ立ち尽くしていただけだから気が紛れない。

 

傍観者

 

そう呼ばれても仕方ない。自分は何もせず、息子が苦しんでいるのを見ているだけ。たまに息子の頭を撫でてやることぐらいが精一杯のできることだ。

 

私には倒すべき敵はいない。環境に身をゆだね、立ち尽くすだけ。

 

トイレ内の協奏曲に頭がクラクラしてそれまで立っていたのだが、私は座り込んだ。その時、入ってからすでに20分が経とうとしていた。

 

その時、息子がオナラをした。

 

便秘のオナラは臭い。個室には換気設備はない。臭いが部屋に立ち込める。

 

4DX

 

これが噂のアトラクションシステムか。サラウンドに加えて臭いも体験できる優れもの。

 

東京駅の4DXを体験したのは私が初めてじゃないかしら。

 

この時点で息子に言った。

「もう限界だ。出よう。またしたくなったらトイレ探そう」

すると、「今出たら漏れる。もうすぐ(うんこ)出るから」と少し申し訳なさそうな顔をして言うのだ。その時点で30分が過ぎていた。

 

このままでは、『レヴェナント』の上映時間も過ぎてしまう。息子の体操教室にも間に合わなくなる。

 

時間に追われる中、頭痛と吐き気、狭い部屋に立ったり座ったりしているだけの状況。

 

想像できるだろうか。

 

その時、私は思ったのだ。

 

これこそが、子育てのリアルだ、と。

 

うんこが出ないのは息子のせいじゃない。息子は必至に戦っている。このイライラは息子にぶつけるべきじゃない。息子は悪くない。悪いのは便秘だ。

それと同時に、自分ではコントロールできない状況、つまり子どもの都合、歩調に合わせないといけないということに対しての苛立ちを感じてしまう。

自分ならすぐにできることが、子どもにはできない。

子どもができないと、自分もそれに合わせないといけない。

急いでるのに。やることあるのに。自分はこんなに辛いのに。人に迷惑かけないで。言うこときいて。思い通りになって。ストレス与えないで。

 

人は余裕がある時に、人のことを思いやれるんだということを痛感する。

 

唯一、この苦しみから逃れる方法はたった一つ。

 

色々なことを諦めるしかない

 

遅刻しても、ま、いっか。行かなくても、ま、いっか。ちゃんとできなくても、ま、いっか。
一番大切なことだけを選択し、他は全部捨てる―
そうして、初めて子どもの気持ちに寄り添うことができる。

 

それが難しいのだ。人は欲張りだから。

 

そして話は戦場に戻る。
うんこと一生懸命戦っている息子を応援していた自分は、もはや頭痛と吐き気と疲労によって、「早くしてくれよ」という言葉を発してしまう、父親でも大人でもない消耗しきった、ただの人間になっていた。

 

そして50分が過ぎた。

 

私は思った。便秘のせいで今、二人は苦しんでいる。

なぜ便秘になるのか。

息子が好き嫌いをして野菜を食べないからじゃないか。野菜を普段から食べていればこんな目に合わなくて済んだはず。

 

そして苦しんでいる息子にこう言った。
「おい。お前が野菜食べないからうんこ出ないんだぞ。今日から野菜食べろ。残さず食べろ!」

 

や・さ・い・を・た・べ・ろ

 

この言葉を、これほどの強度を持って発信したことは今までない。
やり場のない怒りが、確かな正義を持って言葉になった瞬間だ。

野菜食べないと病気になるから食べなさい、というある種他人事のような、曖昧な感覚で言ったことは何度かある。いや、そういえば漠然と言ったことしかない。

 

今は心の底から言える― 野菜を食べなければ、人に多大な迷惑をかけることもあるのだと。

 

こんな地獄のような時間を過ごす中で、罪を憎んで人を憎まず、息子に本気で野菜を食べることの重要性を伝えることができた。

さすがに息子も悪いと思っているのだろう、いつもなら断固拒否なのに、「え~、ネギも食べないといけないの~?」と条件次第では飲む姿勢だ。

 

 

トイレに入ってから1時間。正確には57分。

息子はうんこを無事にやっつけた。

 

1時間あれば、確実に家に帰れていたのである。この時間は無駄だったのか。

 

いや、息子に野菜を食べることの大切さを伝えることができた貴重な時間だったと、今では言える。

 

そして、その後息子を連れて帰り、そのまま映画館に行って『レヴェナント』と『スポットライト』を連続で観たのだった。

憔悴していても行くしかないのだ。映画に行けるチャンスなんて、そんなにないのだから。

 

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